【論文採択】格子網に対するサケの行動(水産技術)

M2の櫻木です.私が格子網に対するサケの行動について調べた研究が昨年の12月に「水産技術」に採択されました.

 

櫻木雄太,小林基樹,髙原英生,三谷曜子(2019)アザラシ被害対策として定置網の金庫入口に設置した格子網に対するサケの行動.水産技術,12(1),17-22.

 

今回は,その論文の概要を紹介したいと思います.

 

 

北海道の襟裳岬周辺にはゼニガタアザラシPusa vitulina stejnegeri(以下,アザラシ)が多数生息しています(写真1).また,当該地域ではサケ定置網漁業が盛んにおこなわれており,地域の生活基盤を支える重要な産業のひとつとなっています.

写真1.襟裳岬の岩礁上で休んでいるゼニガタアザラシ.

近年,当該地域におけるアザラシの個体数は増加傾向となっており,それに伴いサケ定置網における漁業被害の深刻化が問題視されてきています(写真2).この漁業被害対策として,定置網の金庫入り口に網目が角目の網(以下,格子網)を取り付け,アザラシが物理的に侵入するのを防ぐ試みが行われています(図1).これまでに格子網によってアザラシの侵入を防いだり,来遊頻度を低下させる効果が確認されましたが,サケOncorhynchus ketaの入網に影響を与えているかどうかはわかっていませんでした.

写真2.アザラシによって頭部を食べられてしまったサケたち.このような傷サケを「トッカリ喰い」と呼ぶ.

 

 

図1.定置網のイメージ図.金庫網入り口に格子網を取り付けることで,アザラシの侵入を妨害することができる.しかし,サケへの影響は不明だった.

 

そこで本研究では,格子網の目合の大きさや網地の色でサケの入網率に違いがあるのかを調べるために,我々の研究室がある函館市国際水産・海洋総合研究センターの大型実験水槽を用いて,格子網vsサケの実験を行いました.

 

実験では,大型実験水槽(幅:約10 m,奥行き:5 m,高さ:6 m,容量:約300 t)を漁網で仕切り,その一部に穴をあけ,格子網を入れ替えられるようにしました.格子網は網地が白色の格子網(網目一辺:16,18,20,25 cm)と金茶色の格子網(網目一辺20 cm)を用意し,各種格子網についてサケの通過を昼夜で観察しました(図2).サケが通過したか,忌避行動を示したかはビデオカメラを見て,計数しました(図3)

 

図2.サケの行動観察実験の概略図.このように格子網の真横と正面にビデオカメラを設置し,サケの通過を調べた.

 

 

 

 

 

図3.サケの通過はビデオカメラの映像から調べた.図のように,サケの行動は格子網接近数を調べ,格子網通過と忌避行動に分類した.

 

 

その結果,網目一辺が16cmの格子網でサケの忌避行動は多くなる傾向が見られました。また,同じ網目一辺の長さでは白色と金茶色では通過率に有意差は認められませんでしたが,接近回数は金茶色で多かったことから,網目一辺18cm以上で金茶色の格子網を用いることでサケの入網率を高められると考えられました。

ただし,網目が大きいとアザラシも侵入しやすくなるため,網目の形状の工夫や被害状況を考慮して設置する必要があると考えられました.

図4.各種格子網の明・暗条件における接近回数と網通過率.接近回数を示す棒グラフのうち,白色部は忌避回数,暗色部は通過回数を示す.網通過率は通過回数/接近回数の値を示す。図中の丸は明条件における網通過率を,三角は暗条件における網通過率を示す.

 

 

 

本研究を進めるにあたって,非常に多くの方にご協力を頂きました.海棲哺乳類の調査では,非常に多くの方の協力が必要となることが多々あります.今回の実験ではサケを対象としましたが,この実験を通して,実験で多くの方と協力して進めていくことの難しさを学ぶことができました.

この場をお借りして,本研究に携わった皆様に心から深く感謝申し上げます.

 

関連記事

PAGE TOP