卒業生の平川です。
学士・修士課程でキタオットセイの研究を行っていました。
学士課程での研究(卒業研究)が論文になりましたので、ご紹介させていただきます。
Yukino Hirakawa, Takanori Horimoto, Ippei Suzuki, and Yoko Mitani* “Estimation of Sexual Maturity Based on Morphometrics of Genital Organs in Male Northern Fur Seals, Callorhinus ursinus,” Mammal Study 46(1), 1-11, (21 December 2020). https://doi.org/10.3106/ms2020-0004
皆さんはオスの鰭脚類の性成熟の調べ方をご存じでしょうか?
オスのキタオットセイの性成熟は、精巣の組織切片を観察し、精子形成段階を調べることで推定しています。
しかし、漂着して腐敗した個体や凍結した個体の精巣は、精巣の細胞組織が壊れてしまうので、精子形成段階を調べることができません。
(組織切片の写真)
そこで本論文では、個体や生殖器官の保存状態に関わらず性成熟を調べるために、生殖器官の中から、精巣重量・サイズ、精巣上体重量、陰茎骨重量・長さの5パラメータを用いて、精子形成段階を推定しました。
(精巣)
まず、今回パラメータとして用いる精巣重量・サイズ、精巣上体重量、陰茎骨重量・長さについて、成長パターンや季節変化について調べました。
成長パターンは、Von Bertalanffyの成長式を当てはめたところ、年齢とともに成長し6歳以降で成長速度が遅くなっていましたが、陰茎骨重量は6歳以降も増加していることが分かりました。
季節変化は、個体の捕獲時期を精子が形成されている5-7月(Season I≒繁殖期)と精子形成が始まる前の1-4月(Season II≒非繁殖期)に分けて、各パラメータを比較しました。
陰茎骨重量・長さ、標準体長では差はありませんでしたが、精巣重量・サイズ、精巣上体重量では、有意な差があり(Season I > Season II)、非繁殖期から繁殖期にかけてサイズ・重量が増大することが考えられました。
次に、精巣の組織切片観察により精子形成段階が分かっている個体の精巣重量・サイズ、精巣上体重量、陰茎骨重量・長さをもとに判別分析を行ったところ、精巣重量で最も正確に精子形成段階を推定することができました(Table.4参照)。
今まで精巣が腐敗したり、精巣が採取できなかったため性成熟が推定できなかった個体について、解剖時に計測したパラメータから性成熟を推定できることが期待されます。
本研究がキタオットセイ、海棲哺乳類の繁殖研究の一助になれば幸いです。
【追記】
本論文は在学中の投稿を目指して執筆していましたが、間に合わず…。
修士課程を卒業して1年半も経ってしまいましたが、なんとかアクセプトされ今回の掲載に至りました。
論文の修正やアドバイスをいただきました三谷曜子先生、堀本高矩様、鈴木一平様には、心から感謝申し上げます。