こんにちは、卒業生の岩原由佳です。
先日、学生時代に行った研究の以下論文が発行されましたので、その内容と調査の裏話などを紹介させていただきます。
Yuka Iwahara, Hokuto Shirakawa, Kazushi Miyashita, Yoko Mitani (2020) Spatial niche partitioning among three small cetaceans in the eastern coastal area of Hokkaido, Japan. Marine Ecology Progress Series, 637: 209–223, https://doi.org/10.3354/meps13232
【内容紹介】
カマイルカとイシイルカ,ネズミイルカは(図1),秋季に北海道東部海域に来遊し,その生息水温帯も比較的類似しています.
図1 左からカマイルカ、イシイルカ、ネズミイルカ
このように同所的に生息する生物は,詳細なスケールで見ると分布域の違いが見られることが報告されています.そこで、3種の種間関係を把握するため,北海道東部海域沿岸海域において2009,2011~2015年の9,10月に北海道大学練習船うしお丸にて目視調査を実施し、3種の分布を把握して空間的なニッチの重複度を算出しました。また,餌生物の分布を推定するため、計量魚群探知機を用いて,3種の発見位置での潜在的な餌生物の鉛直分布を比較するとともに,調査海域全体での深度ごとの潜在的餌生物の分布環境を推定しました.
目視調査の結果,カマイルカは根室海峡周辺や東部沿岸側に発見が多く,イシイルカは北海道南東部沖合や知床半島周辺,ネズミイルカは知床半島から釧路にかけての沿岸海域に散在して観察されました(図2).
図2 カマイルカ(赤)、イシイルカ(黄)、ネズミイルカ(青)の発見位置。a)9月、b)10月を示す。
カマイルカとイシイルカは空間的ニッチの重複度が低く、水深によって生息海域が異なっており,カマイルカが水深の浅い海域,イシイルカが水深の深い海域に分布していました。ネズミイルカは2種よりも発見数が少なかったものの陸からの距離が近いところに分布しており,カマイルカ・イシイルカと分布が重複する傾向にありました.3種の発見地点での潜在的な餌生物を比較すると、カマイルカの発見位置では、表層に餌生物が多く、イシイルカではそれよりも深い海域、ネズミイルカでは2種に比べて、比較的傾向が見られませんでした。3種の分布は比較的表層性の餌を捕食するカマイルカ,中深層性の餌を捕食するイシイルカ,そして2種と比べて底生性魚類も捕食するネズミイルカの3種の食性の違いを反映していると考えられました。
【論文・論文投稿裏話】
カマイルカとイシイルカの分布がきれいに分かれているな~…、と気づいたのは、私が修士1年生のころ、2年上の先輩方が実施した2009年の調査結果と自分で行った2011年の結果を合わせて、解析を行っていたときです。
これは面白い発見ができるかもしれない…!と、更に調査を進めることとしました。
しかし、この調査は、秋の太平洋海域。まさに台風の通り道です。
広い太平洋は、台風がまだ遠く南にあるころから、大きなうねりが調査海域を襲ってきます。
10日間の調査の内、半分も調査に出られない…。なんてこともよくありました。
当時、うしお丸の乗組員の皆さんからつけられた台風を呼ぶ女、通称「台風女」の汚名は、乗船が多い現在の職場でも未だに返上できずにいます。
調査の裏話は岩原(2016)でも紹介しておりますので、よろしければぜひお手に取ってみてください。
ちなみにこの海域では、この3種以外でもたくさんの海棲哺乳類に出会うことができます。
しかし、なかなか情報が少ないのが現状…、後輩達に期待しています。
本研究内容は博士論文の4章部分で、未発表のまま卒業することとなってしまいました。卒業してから早3年…。月日の経過の速さと自分の論文執筆速度の遅さに驚きつつ、卒業してからも最後まで付き合ってくださった、三谷先生に心より感謝申し上げます。
拙筆にお目を通していただき、誠にありがとうございました。
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岩原由佳(2016)「イルカはどこにいるか?-洋上での鯨類目視調査」pp. 221-255 はじめてのフィールドワーク②海の哺乳類編 東海大学出版部
https://www.press.tokai.ac.jp/bookdetail.jsp?isbn_code=ISBN978-4-486-02105-6