M2のMさんが,ラッコに関するアンケート調査について報告してくれました!
8月中旬から9月中旬にかけ、北海道厚岸郡浜中町の霧多布岬で、ラッコに関する調査を行ってきました!
この霧多布岬には、ラッコが定着しており、現在14頭のラッコが確認されています。中でも、赤ちゃんを抱えている子育て中のメスが4頭いて、赤ちゃんの成長には特に注目が集まっています。
夏休みシーズンには、家族旅行や学生旅行でラッコを見に来る方々も多く、ラッコが遊歩道近くの湾内に入ってきているときは、野生のラッコが近くで見られることに感動される方も多くいらっしゃいました。
さて、その霧多布岬に行ったのは、そのラッコたちを観察するため・・・ではありません。
冒頭、「ラッコの調査」ではなく、「ラッコに関する調査」と書いているのには、実は理由があります。というのも、今回の調査対象はラッコではなく、「ラッコを見に来た人々」だからです。
海獣班では、乗船し野生の海棲哺乳類の行動観察を行うフィールド調査が多いですが、私の調査は「環境評価」と言われるものになります。簡単に言えば、人々が環境(ラッコや、ラッコによってもたらされる環境の変化)に、どの程度の価値を感じているかを明らかにしよう、というものです。
ではなぜそのような調査をするのか?と言いますと、人とラッコの共存の為に、地域の人々が協力して町づくりを進めていくための論拠を作るためです。
ラッコは生態系や人間の経済に与える影響が大きい生き物です。皆さんが最もイメージしやすいのは、ラッコによる漁業の損失ではないでしょうか。ラッコは一日に体重の1/4もの重さの餌を食べる必要があり、海外ではウニ漁業に大きな損失が発生した地域があるという報告もあります。そのため、ウニ漁業に関わる人にとって、ラッコという生物は懸念事項の一つとなってしまう可能性もあります。
一方で、ラッコは様々な生態系サービス(生態系から得られる,人間生活に恩恵となる機能)を提供してくれることが分かっています。
その一例として、海外では、
①ラッコがウニを食べることでコンブ林が回復し、沿岸生態系が多様化・漁獲量増大
②コンブ林再生による、大気中の二酸化炭素の海中への吸収
③観光資源としてラッコが人々を呼び込むことによる、地域経済の活性化
といった効果が報告されています。これらの利益は、ラッコがウニやカニを食べることで発生する漁業損失を大きく上回るとされています。
Gregr, Edward J., et al. “Cascading social-ecological costs and benefits triggered by a recovering keystone predator.” Science 368.6496 (2020): 1243-1247.より引用
しかし、利益が損失を上回るから全く問題がない、というわけでは決してありません。立場の違いによる損益の差や、ラッコや町づくりに対する方針の差によって、ラッコとの共生のヴィジョンは人それぞれ異なります。そのような、多様な考え方が存在する地域において、合意を形成し、皆が納得できる方策を打ち立てるためには、可視化された科学的・統計的根拠が必要となるわけです。
本研究では、ラッコへのハラスメント防止や、ラッコを通じた地域の自然に関する教育機会の拡充といった内容に対する関心を尋ねたほか、ラッコに関する生態の情報提供の有無によって、回答者の価値観にどのような差が出るかを調査しました。
余談ですが、ラッコの餌生物や生態系サービスに関する説明をする際には、「知らなかった!面白い!」と関心を示してくれる方も多く、野生動物に関する学習機会の提供というのは重要だなぁと感じました。
町役場の方や、NPOナショナルトラストの方々とも岬で会うことが多く、激励と共に、期待の声もいただけました。このような環境評価をはじめとした社会調査によって得られた知見を、フィールド調査によって得られた情報と併せて地域に提供・還元することは、野生と人が共存できる社会の実現において重要です。最近、理系の人が多い僕の周りでも、こういった社会調査が盛んになってい(る気がし)ます!!
これからの進路や研究内容に悩んでいる学部生の皆様は、このようなアプローチから動物の研究をしてみることを考えてみるのはいかがでしょうか。新しい発見や、課題解決の方法が見えてくるかもしれませんよ!
~おまけ~
霧多布岬のある浜中町の公式マスコット、きりたんです。
2023年9月10日のお祭りに現れてくれました!しっぽには浜中名産のこんぶがくっついていたり、日によってはシカの被り物をしていたりと、浜中らしさ、道東らしさの詰まったかわいいキャラクターです。ぜひ覚えていってください!
写真右がきりたんです。左は調査3週間目で覇気がなくなってきている筆者です。
この調査と同時期に、他メンバーはラッコのフィールド調査にも行っていました。その報告は別のブログ記事からどうぞ!