【論文採択】mtDNAハプロタイプによる北海道周辺海域に来遊するシャチの生態型解明

北海道周辺海域のシャチの持つmtDNAのハプロタイプが,北太平洋の他海域のどの生態型(エコタイプ)のシャチと一致するのかを調べた論文が,Mammal Studyに掲載されました.

 

Yoko Mitani, Yuki F. Kita, Shigeo Saino, Motoi Yoshioka, Hiroshi Ohizumi, and Fumio Nakahara “Mitochondrial DNA Haplotypes of Killer Whales around Hokkaido, Japan.” Mammal Study 46(3), 1-7, (2 June 2021). https://doi.org/10.3106/ms2020-0072

 

シャチは全海洋に生息する高次捕食者ですが,海棲哺乳類食性と魚食性という遺伝的に異なる生態型があることが知られており,トップダウン効果によってそれぞれに下位の生態系に影響を与えています.北海道周辺海域でも本種が季節的に来遊しますが,何かを食べるようなシーンに遭遇するのは稀であり,どの生態型かについてはほとんど情報がありませんでした.そこで本研究では,シャチの皮膚片をバイオプシーによって採取し,遺伝子分析を行いました.

図1.mtDNAを分析した8個体の背びれ写真とサンプリング場所

 

2013〜2017年に8個体(網走沖1,釧路沖4,羅臼沖3)の皮膚片を採取し,同時に個体識別のための背びれ左側写真を撮影しました(図1).mtDNAのD-loop領域とCyt-b領域の分析を行い,これまでに報告されているハプロタイプと比較しました.また,背びれの形や欠け,基部の白斑(サドルパッチ)より個体を識別しました.

 

遺伝子分析より,D-loop領域では3つ,Cyt-b領域では2つのハプロタイプを同定しました.4月(流氷期)の網走沖の1個体と,7月に釧路沖でイルカを捕食していたグループにいた1個体(捕食シーンはこちらから)はいずれも他海域の海棲哺乳類食性由来ハプロタイプと一致しました(図1の1と3[紫色の枠線]).また、釧路沖の3個体と羅臼沖の3個体は,魚食性由来ハプロタイプと一致しました(図1の2,4-8[赤色の枠線]).

 

図2.サドルパッチのタイプ(Baird & Stacey, 1988より).

 

他海域において,哺乳類食性のシャチはスムーズと呼ばれるサドルパッチを持ち,魚食性は全てのタイプのサドルパッチを持つことが知られています(Baird & Stacey, 1988; Filatova et al., 2015).本研究においても全個体のうち哺乳類食性由来ハプロタイプと一致した2個体はスムーズタイプであり,魚類食性由来ハプロタイプの6個体では2個体が水平切れ込み,1個体がスムーズ,3個体がバンプとなっており,本海域でも同じ傾向があることが示唆されました.

 

以上より,北海道周辺には海棲哺乳類食性と魚食性,2つの生態型が来遊することが明らかとなり,今回の研究成果は,本種の保全に重要な知見となることが期待されます.


三谷曜子.シャチによるイルカの狩り行動(北海道).MOMO:動物行動の映像データベース(momo210612oo02b)http://www.momo-p.com/index.php?movieid=momo210612oo02b&embed=on

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