2021年6月 猿払村トド調査

図1.CTD-SRDL.


D2のSくんが報告してくれました!


 

6月7~8日の2日間,北海道北東部に位置する猿払村にてトドに衛星発信器の装着を試みました.

この調査では,トドに水温や塩分といった海洋環境も計測できる機能を有した衛星発信器を装着することで,1)オホーツク海の海洋環境を明らかにすること,2)トドの回遊生態を明らかにすることを目的としています.

トドに装着するこの衛星発信器はCTD Satellite Relayed Data Loger(CTDタグ,図1)と呼ばれ,イギリスにあるSt. Andrews大学のSea Mammal Research Unit(URL: http://www.smru.st-andrews.ac.uk/)が制作しています.

このCTDタグは位置情報に加えて,水温,塩分,深度を記録し,Argosシステムを介してデータが送られるため,我々が直接その場所に行かなくても,実際にその動物が潜っていた場所の周囲の海洋環境情報を得ることができるのです!そのため,荒れる日の多い南極海の海洋観測を実現するために,CTDタグをゾウアザラシに取り付けられたりしています(Ohshima et al. 2013).つまり,ゾウアザラシが調査員として,海洋観測をしてくれるのです.すごいね!

オホーツク海は流氷で有名な海域です.この流氷の形成過程でブライン水(塩分の濃い水)が生じます.海水は冷たいほど,塩分が濃いほど,重くなるため,放出されたブライン水は沈み込み,循環が生じます.オホーツク海はこのような海水を循環させる機能を有することから,北太平洋の心臓と呼ばれています.この循環は流氷の存在が一つの駆動要因となりますが,近年の地球温暖化は流氷を減少させ,このポンプ機能を低下させてしまう恐れがあります.そのことから,オホーツク海の海洋構造の解明とモニタリングは非常に重要な課題であると言えます.

そこで,トドの登場です.トドは夏になると千島列島やコマンダー諸島などといったオホーツク海やベーリング海にある島で繁殖をし,冬になると南下し,また夏になると繁殖のために北上するという回遊生態をもちます.そのため,北上するタイミングでトドにCTDタグを取り付ければ,オホーツク海中の海洋環境を調べられる可能性があります.

そんなことで,我々はCTDタグを用意し,北海道北東部に位置する猿払村で,漁師さんと協力して,トド(目標2個体)にCTDタグ装着を試みました.

今回の調査では,漁師さんからトドが獲れた連絡が来たら,GOするというプランでいました.そのため,朝,漁師さんから連絡が来たら,研究室のある函館(道南)から猿払村(道北)への移動だけで,およそ1日もかかる北海道縦断旅行となりました(図2).

図2.猿払村までは約650 kmもあり,とても遠いです.

 

まだかまだかと漁師さんからの連絡を待ち,ついにトドが捕れたとの報告が!

そして,無事に1頭目のトドにCTDタグの装着を成功しました!(図3)

図3.1個体目のトド.名前はリリーと名付けられました.

 

無事に発信器の装着を終え,せっかく猿払村まできたので,翌日の朝に,漁師さんの定置網漁にも参加させていただきました.

すると,なんということでしょう.トドが定置網に入っているではありませんか!

急遽,2個体目にもCTDタグの装着をし,無事に放獣することができました(図4).

 

図4.2個体目のトド.ラッキーと名付けられました.

 

まさか,1度の猿払旅行で,CTDタグをトド2頭に装着できるとは,思いもしませんでしたが,無事に上手くいって良かったと思います.

リリー調査員とラッキー調査員が貴重なオホーツク海の海洋データをたくさん送ってくれることを祈ります.

 

今回のトド調査は,地元漁業者や研究者の皆様と,たくさんの方々の協力のおかげで,成功させることができました.この場をお借りして,御礼申し上げます.

 

引用文献

Ohshima, K. I., Fukamachi, Y., Williams, G. D., Nihashi, S., Roquet, F., Kitade, Y., Tamura, T., Hirano, D., Herraiz-Borreguero, L., Field, I., Hindell, M., Aoki, S., Wakatsuchi, M. (2013). Antarctic Bottom Water production by intense sea-ice formation in the Cape Darnley polynya. Nature Geoscience6(3), 235-240.

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