2023年5月羅臼シャチ調査

2023年5月に実施された羅臼のシャチ調査について、M1のSさんが報告してくれました!

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5月9日から13日にかけて、Uni-HORP(北海道シャチ研究大学連合)による羅臼でのシャチ調査が行われました。この調査は、Uni-HORPのメンバーである研究者らが協力して、毎年同じ時期に行っている恒例の調査です。

調査には、京都大学、東海大学、常磐大学などの様々な大学の研究者や学生たち、水族館職員といった多くの調査員が参加しました。Uni-HORP(北海道シャチ研究大学連合)についてはこちら→https://sites.google.com/view/uni-horp/home

今年の調査でも観光船をチャーターし、知床半島の羅臼港と半島の先端付近を往復して、根室海峡にいるシャチを探しました。ただし、出航できるかどうかは、海況によります。

出航できた場合の一日の調査スケジュールは、朝の6:30ごろに港に集合し、荷物を積み込み、乗船名簿に全員が記入したら、7:00ごろに出港します。出港した時、港を出て調査を開始する時に、その時刻やGPSでの緯度経度記録を努力量記録表に記入していきます。

それと同時に、一時間ごとの天候記録も忘れずに行います。天候記録は、なるべく7:00、8:00…といった正時に、GPSでの緯度経度、「晴/曇/雨/霧」といった天候、風向、水温、気温、視界、反射光、海況、水深を記録します。記録する項目がたくさんあって大変そうだと思われるかもしれませんが、自分で判断する必要があるのは天候、反射光、海況だけです。緯度経度はGPS、水温と気温は船に備え付けてあるモニターや温度計の表示を見て、風向と水深は船長さんに聞いて記入しています。

努力量、天候記録の他に、海棲哺乳類の発見があった場合は発見記録も行います。まずは、船の左側と右側のどちらにいるのか、船の先端を0°としたときの発見角度、推定距離、発見時刻、発見の手がかりを記入していきます。他にも、発見した種とその頭数も記録しますが、その場で判断できない場合、下船後に、撮影した写真や動画を見て記入することもあります。本調査の対象種であるシャチの群れでは、各個体が浮上してくるタイミングが異なるため、正しい頭数を把握することがとても難しかったです。そのため、ドローンで空撮した動画を見返して頭数を決めることもありました。

調査2日目に出会った、シャチの群れ。波は高くないが、この日は雨が降っていて、一面灰色の景色だった。

今回は5日間のうち2日間が欠航で、3日間はシャチを発見・観察することができ、大変有意義な調査期間となりました。

しかも、既にご存知の方も多いかと思いますが、調査最終日に白いシャチが現れたのです!!

現在のところ、この個体は、日本で最初に観察された白いシャチと同じ個体である可能性が高いとされていますが、Uni-HORPによる調査中に白いシャチに接近し、じっくり観察できたのは今回が初めてです!

一頭の白いシャチを含む群れ。ゆっくり泳いでいたので、観察しやすかった。

至近距離で見られた白いシャチ。目の色が気になるが、目がはっきり映っている写真を撮るのは難しい。

今回の調査では、シャチの個体識別用写真の撮影、鳴音の録音、ドローンによる空中撮影と噴気(ブロー)採取、船上からの噴気採取も行いました。

個体識別写真は、シャチが左側を向いている状態で、背びれとサドルパッチが写るように写真を撮ります。撮影した写真は、これまでに得られた個体識別写真と見比べて、どの個体が来遊しているのかを確認します。

鳴音の録音は、水中マイクを船の後ろに係留して、シャチが近くにいるときに、マイクから入ってくる音をよく聞いて記録します。シャチの鳴音解析を研究テーマにしている学生は、シャチの姿をじっくり眺める時間もなく、船内で水中マイクからの音に集中していました。

シャチの噴気採取は、噴気の中にシャチのDNAが含まれているかどうかを調べるための実験で、ドローン、オリジナルの道具、シャーレを使った3種類の方法を試しました。

ドローンを使用した方法では、シャチのブローがかかるようにドローンを低空飛行させた後、回収したドローンの表面を綿棒でこすって、噴気由来の水滴を採取します。

船上からは、写真のような長い棒の先端に付けたビニール袋を、シャチの頭上や噴気が流れてくる方向にもっていくことで噴気を採取したり、全調査員にシャーレが配られ、自分にシャチの噴気がかかりそうになったときに手元でシャーレを開けて採取したりと、色々な方法を試しました。現在、東海大学のチームが解析を進めていますが、結果がとても楽しみです!

ブローを採取するためのドローン。低空飛行に挑戦したが、シャチに嫌がられてしまったようだ。

船上からの噴気採取の様子。長い棒の先端にビニール袋を付けた道具を使用。シャチが浮上してブローをあげる瞬間を待つ。

以上のような実験と記録を行い、帰港は15:00~16:00ごろとなります。

宿に帰ってからも、努力量、天候記録、発見記録のデータ化、写真や動画の共有、採取した噴気からのDNA抽出準備などなど、やることはたくさんあります。

このように、調査期間中は、限られた時間の中で多くの作業をこなさなくてはいけません。調査員一人一人の担当作業は決まっていますが、手の空いた人は作業中の人を手伝うなどして、協力し合って調査を行いました。複数人で行う調査では、思いやりとボランティア精神が大事です!

他の調査員の作業を手伝ったり、見学したりしていると、「こんな方法もあるんだ!」「こんな工夫が詰まっているのか!」と、とても勉強になり、面白かったです。

今回の調査でお世話になった皆様、クラウドファンディングでご支援いただきました皆様に、心から感謝申し上げます。

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